放課後の雨



 ある日の放課後、急に大雨が振りだした。
 皆が皆傘を忘れていた。もちろん俺も例外ではなかった。
 狭い下駄箱に人が溢れる。
 隣には高橋がいる。
「なんで、お前は傘持ってるんだよ」
「僕だからね」
 いまいち理由になっていない。
 下駄箱で絶望している人たちの中に知っている顔を見つけた。二岡さんだった。
 彼女も傘を忘れているようだった。
「高橋、お前今日傘何本持ってる?」
「一本だ」
 そう答えた直後、高橋も二岡さんを見つけたようだった。
 高橋は二・三歩駆けて二岡さんに近付くと
「傘、貸そうか?」
 たしかにそう言った。あまり離れていないから声は一応聞きとれる。
 二岡さんは苦笑いをしながら
「いや、いいよ。濡れて帰るよ」
 と答え走り出した。
 高橋は少し落ち込んでいるようだった。
 同時に喜んでいるようにも見えた。
 振り返った高橋は俺に聞いてきた。
「阿部、お前はどうする?」
「俺は雨あがるまで待つよ。先帰りな」
 それを聞くと傘を差し、一人で高橋は歩き出した。
 黒い雲に、大粒の雨。これが晴れてずっと太陽を浴びれる日常。傘を差さずに歩ける日。
 それを、俺も望むようになっていた。


 ある日の放課後。急な雨が降り出した。
 私は傘を忘れてしまっていたし、他の人も多く忘れていた。
 狭い下駄箱に人が溢れている。
 残念ながら友達もみんな忘れていた。
 走るかな。
「傘、貸そうか?」
 まさに今、雨の中を走り出そうとしたときだった。
 声がする方を振り向くと、いたのは高橋君。後ろには見守るようにして阿部君もいる。
 なんでこいつはまた私に声かけてくるんだ。
 好意のつもりなのだろうか。
 これが美少年……とまでいかなくても、せめて頭か体か家柄くらいよければいいのに。
 まだ後ろの阿部君からの好意を受けたかった。そっちなら受け止めていたかもしれない。
 たまに家の近くにいるし、気持ち悪いんだよね。高橋君って。鳥肌がたった気がした。
 私は笑いながら
「いや、いいよ。濡れて帰るよ」
 と伝えてから雨の中を走り出した。
前を向く寸前に視界に入った、高橋君のにやけた顔が頭に残った。
 髪と足に刺さる水が、体を震わした。

あとがき
二番乗りです
作品は、前のサイトでも散々使っていたやつです。
いい加減一つくらいあげなきゃと思い移植しました。
これからは書き下ろしていきたいです。
一応編集が今までのとは若干違うんですが……まぁ、変わらないですね。
時間の無駄になってしまったら申し訳ないです。
次回は今度よりいい時間を与えられるように祈りつつ。
(2007-05-29) 文月水無

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