夕立の折りたたみ傘



「くそ、なんで雨なんか降るんだ。降水確率ゼロパーだったろ」
窓を見ながら隣で騒ぎたてる友人。
どうやら急な夕立に苛立っているらしいが、授業中なんだからもう少し静かにしたほうがいいと思うぞ。
「天気予報だって完璧じゃないだろ」
静かにしろという意味を込めて相手にする。つまらない授業中を意識の外に置けるという思惑もあったが
「嫌に余裕だな。おい……! まさか、てめぇ傘持ってきてやがんな」
「その通りだ。馬鹿め! 常にかばんの中に折りたたみが入っている俺には雨等恐くないわ!」
「畜生っ、なんてこった。神は滅んだのか」
わざとらしく額に手をあてる白河。
「いや、お前が神様に嫌われてるんだ」
なんて盛り上がるが、すっかりわすれてたが授業中なわけで
「この問題は神野くんに解いてもらおうかな」
「げっ」
「あははは、いいきみだ」
「次の問題を白河くん」
「なっ」
痛み分け


「ちくしょー、お前のせいで当たっちまったじゃねーか」
最初に騒いでたのはお前だろうに。
「ああ、悪かった。じゃあ、そういうことでな」
「ちょっとまてやー!」
「なんだよ」
「てめぇ、掃除手伝いやがってくださいお願いします」
「……がんばれ」
さっさと教室から出ていく。後ろから「神野ー」なんて叫び声はが聞こえた気がしたが気のせいだろう。


下駄箱でで立ち往生する奴らを尻目に傘をさしながら駅に向かいさっさと電車に乗る。
「あれ?こーのくん?」
なにやら、どこかで聞いたことある舌足らずの声が話しかけてきた。
「あ、やっぱりこーのくんだ」
振り向くと何が嬉しいのかバンザイしている神田靜がいた。
前髪をピンでとどめ、両側をイルカのマスコットがついたゴムで纏めている。ツインテールというには低い位置で特徴的な髪の毛だった。
「久しぶりー、中学卒業してからだから三年ぶり〜?せー伸びたね」
「そんぐらいだな。神田のほうは……いや、なんでもない」
神田は俺より顔一つ分くらい低い。
「むー、その身長をわけなさい」
背伸びしながらぺちぺちと頭叩いてくる
「俺も男子として低いから嫌だ」
一段落すると神田が窓の外を見ながらぽつりと漏らす。
「うわぁ、凄い雨だね」
見ると確かにさっきより雨足が強くなっている。
「どーしよ。傘持ってないのにー」
心底困った表情が可愛くて目を逸らす。
「急な大雨だから仕方ないだろ」
「うーん、でも、でもやっぱり急な雨は困るよー。こーのくんもそうでしょー」
「まあ、洗濯物が濡れるからからな」
「わ、なんか主夫みたいだよこーのくん」
「今は男女平等の時代だから家事ぐらいしなきゃな」
「うんうん、えらいえらい」
腕を組んでエラソーに頷く神田。いや、なんでお前が誇らしげなんだ。
「って、ああ! 駅着いちゃったよ」
「そりゃ着くだろ」
「どうやってぬれないようにしようか考えてたのにー」
電車から降りてもまだうねる神田。
仕方ない。
「ここで正解発表だ。手を出してみ」
「うん」
おずおずではなくズバッと手を出してくる。潔いなおい
バックの中をあさって目的の物を取り出す。
「折りたたみ傘ー」
未来から来たネコ型ロボットの物まねをしながら折りたたみ傘を神田に手渡す。
「そんなことしたらこーのくんが困るよ」
「いいって、バックの中にもう一本入ってるからさ」「ほんと〜、じゃあ借りていくねー」
「おう」
と、数歩歩いたところで神田が戻ってくる。
「どうした?」
「アドレス教えて
なっ、これってもしかしてフラグ立った!?
傘返すにも返せないから」まあ、そうですよね。
「えーと、赤外線でいい?」
「うん。わたしも送るよー」
アドレスを交換しあって今度こそ神田は帰って行った。一本しかない俺の傘をさして。
完全に帰ったのを見てから独り言もれる
「さて、どうするか」
傘は一本しかなかったから、もちろんバックには入ってない。
「仕方ない。濡れてかえるか」
雨に濡れるのは嫌だけど、神田が喜んでたからよしとするか。
俺は雨の中に体を躍らせた。






「ただいまー」
「あら、雨大丈夫だった?迎えに行こうと思ってたのよ」
私が帰るとおかーさんが迎えてくれた。
「うん、友達に折りたたみ傘借りたから」
「あらあら、その友達は平気なのかしら」
「傘二本持ってるって言ってたから甘えちゃった」
「あら、借りたのは男の子なのね」
「え、なんでわかるの?」私は一言もそんなこと言ってないはずだけど。
「傘が男物だからよ」
「学校の子?」
「ううん、こーのくん」
「あらあら、良かったわね」
お母さんが笑う。
私がこーのくんを好きだと知ってるからだと思う。
(こーのくんやさしかったなー)
さっきのことを思い出して微笑む。
アドレスも教えて貰ちゃった
顔が自分でもわかるくらい赤くなってる。
でも、これでこーのくんとメールできると思うと私の心は高鳴った。





雨で冷えた体を温めるための風呂から出ると机の上で携帯が鳴っていた。
「メール?」
頭を拭きながら携帯を開く。

神田
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今日はありがとう
こーのくんはぬれなかった?
私はこーのくんのおかげでぬれなくてすんだよー
ありがと


――――――――――――――――――――――――

どーいたしまして
ぬれなくてよかったな
俺も濡れなかったよ

と返信する
(また、会えるかな? 会えるか)
また、神田と会うことを喜んでいる自分に気付いた。








あとがき
うーん、もうちょっちメールの部分をどーにかしたかったです。


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